長屋の軒先でちょいとドカベン萌談義。
唐突に山里でSS。
あんまり推敲してないんで変なところあるかも。
季節もので、かつ時期的にギリギリなのでアップしてしまう。
読みにくかったらすみません。
あんまり推敲してないんで変なところあるかも。
季節もので、かつ時期的にギリギリなのでアップしてしまう。
読みにくかったらすみません。
山田が遅めの風呂からあがり部屋へ戻ると、里中が小さな勉強机につっぷして寝息を立てているところだった。手元には開きっぱなしの文庫本が一冊。
「里中、起きろ。寝るなら布団を敷くから」
消灯には少し早い時間だったが、山田は里中の背中を揺さぶって起こしてやる。うう、と唸るような声を上げて里中がゆっくりと身体を起こした。大きく伸びをしながら、ああまたやっちまったと顔をしかめたので、山田が何が?と目で問うと、これ、と読みさしの本を里中はひらひらと振ってみせた。
「ああ、読書感想文」
夏目漱石の「こころ」。現代文の教師が夏休みの宿題に出した課題図書だった。
「何度読もうとしても寝ちまう。どこが面白いんだ、これ」
不服そうに里中はため息をついた。山田はもう読んだのか?と問われたので、山田は、ああ、と答えた。
「感想文も書いた?」
「書いたよ」
だってもう休みなんてあと3日しかないじゃないか、と山田は苦笑した。
「ああ、ちくしょう。早く読まないと・・・」
「まだ本、読むのか?」
「読むよ。仕方ない」
仏頂面が可笑しくて小さく笑うと、こういうの苦手なんだよ、と言って里中は口をとがらせた。
「なあ、どうだった」
「『こころ』?そうだなぁ。ちょっと難しかったかな」
「難しいっていうかさ・・・よくわかんないんだよ。なにを言いたいのか。読んでていらいらする」
「どれくらい読んだんだ?」
里中は頁を繰り、半分も行ってないか、と言ってまた眉を寄せた。
「『先生』の遺書の章になると、もう少し話がわかりやすくなると思うよ」
山田は布団を押入から引っ張り出しながらそう言った。
「『先生』の昔の話が出てくる」
「どういう話?」
「友情と、恋愛の話」
ふうん、と気の乗らない生返事を返しながら、里中は頁を繰った。
「友達と女を取り合うんだっけ?」
「話の筋、知ってるのか」
「いや、よくは知らない。でも昨日、三太郎がそんな話してたから」
女を取り合う、ねえ。山田は一人苦笑した。高校生にかかっては漱石先生も形無しだ。
「幼なじみの親友が、自分と同じ人を好きになってしまって、それですごく悩むんだ」
「友情をとるか、恋愛をとるかってことか?」
「まあ、・・・そうなるかな・・・」
ばからしい、と言って里中は本を開いたまま行儀悪くごろりと寝転がった。
「そんなの友情をとるに決まってる」
里中がさも当たり前だというように言い切る。山田は少し驚いて、眉間にしわを寄せながら頁を繰っている里中をしげしげと眺めた。山田の視線に気付いて里中は目を上げると、なに?というように目で問いかけた。
「難しい・・・問題だと思うけど」
「なんで。友情の方が大事だろ」
「・・・うーん」
「だって子どもの時からの親友なんだろ。そしたらそっちの方が大事に決まってるじゃないか」
まあ、それはそうなんだけど、と山田は苦笑した。そんな風に思い切れなかったから『先生』は苦しんだのだ。
「里中、俺はもう寝るよ」
「ああ」
里中は机の小さなライトだけ点けて、部屋の電灯を消した。きっと、30分もしたらまたそのまま寝てしまいそうだな、と思いながら山田は小さく寝返りを打った。
カラン、コロンと聞き慣れた下駄の音がする。
知っているような、知らないような、どこか懐かしい平屋建ての家の引き戸を開ける。
『ただいま戻りました』
山田は自分がかすりに袴という、ずいぶんと古風な姿をしていることに気付いた。がらんとした室内はひんやりとした空気に包まれて、しいんと静まりかえっていた。下駄を脱いで冷たい廊下を素足で踏みしめる。と、手前の障子の奥から小さな可愛らしい笑い声が聞こえてきた。ころころと鈴を転がすような声だった。
からりと障子を開けて中の人間に『帰ったよ』と声をかける。そこには山田と同じようにかすりに袴という服装をした里中がきっちりと正座をしていて『今帰ったのか』と言った。向かいには明るい色の着物を着た小柄な女性が座っている。妹のサチ子に似ているような気もするし、よく見かける熱心な里中のファンの娘の面差しのようにも見え、また全く見知らぬ女性のようにも見えた。彼女は、すぐにふいっと立ち上がると、反対側の障子を開けてするりと部屋を出て行ってしまった。
『なんの話をしていたんだい』
『どうということでもない』
そっけなく里中に返されて、山田は悲しい気持ちになった。急に床の冷たさが素足に浸みてきたような気がして、山田は部屋を出ようときびすを返した。
『じゃあ、また』
『俺は、今日ここを出るよ』
『どうして』
驚いて振り返ると、いつの間にか里中は立ち上がって障子を開け、縁側を降りて庭を出ていくところだった。
先ほどの和服の女性が小走りに歩み寄ってきて、里中の腕につかまる。にこりと笑みを返して里中は彼女の背に腕を回した。
『里中』
慌てて、山田は里中の背を追った。部屋の真ん中に置いてあった火鉢を蹴飛ばしてつんのめる。
『里中、待ってくれ』
『俺は、彼女と行くよ』
里中はこちらを向いてそんなことを言った。また胸の中に冷たいものがどっと広がっていく。どうして。お前は俺も気も知らないで。
『俺だって、彼女を』
と言って女性の腕を掴み、彼女の顔を見て、山田は大きく目を見開いた。
里中・・・?
はっと、目を覚ますと、あたりは暗く、まだ夜闇に包まれているようだった。左手の方がほのかに明るい。やはり里中は机のライトを点けたまま寝入ってしまったようだった。読みかけの本の頁もさして進んでいない。
なんて夢を見たのか。山田は大きく息をついた。掴んだ腕の感触が妙に生々しくてのひらに残っていた。寝る前に里中と小説の話をしたせいだ、と山田は床につく前の記憶をたぐり寄せた。
それにしても「K」も「お嬢さん」も里中だなんて。我ながらなんとも芸のないキャスティングだ。他に女子を知らないわけでもあるまいし、しかもサチ子に似ているなんて、と思い出したところで急に山田は胸が不安にざわめくのを感じた。サチ子はなぜ里中に変化したのだろう。夢の中とはいえ「K」にひどい焦りと嫉妬を覚えことが山田の感情を波立たせていた。「お嬢さん」が里中に変化したとき、「K」は一体誰だった ───?
山田は物思いを振り払うように頭を振って、まだ机につっぷしたまま寝入っている里中の肩を揺すった。
「里中、起きろ」
ぽんぽん、と何度か叩いてみたが起きる気配がないので、身体を抱き起こして布団に入れてやろうと腕を掴んだ。
その腕の感触が、さっきの夢の中の里中と重なって、瞬間山田は身体を強ばらせた。
ふいに、寝る前に聞いた『そんなの友情をとるに決まってる』という里中の声が山田の耳によみがえった。そうだろうか。そんな簡単に思い切れることだと、里中、お前は思うのか?
手のひらにじんわりと里中の体温が伝わってくる。山田は突然わき起こった衝動のままに、そっと里中の小さな身体を両腕で抱き籠めた。胸が呼吸にうすく上下するのを手のひらで確かめ、里中の背中に顔を押し当てて山田は目を閉じる。
『K』は里中だった。そしてまた『お嬢さん』も里中なのだ。無意識に言葉にすることを避けていた感情が、ゆるゆると明確な形をとって胸の中をいっぱいに占領していくのを、なすすべもなく山田は見守った。昨日今日の話ではない。もうとっくに、きっと初めて彼の球を受けたあの日から ───
さとなか、と山田は声に出さずに想い人の名を呼んだ。安らかな寝息は、山田の腕の中で規則的に吐き出され、とどまることはない。
形になってしまった想いの深さと大きさに、山田は絶望を覚えた。この先どんなことがあろうと、この想いは断ち切れることはないだろう。里中を苦しめ、そして里中を愛する人を傷つけるだろう。哀しい予感に、ただ山田は腕にこめる力を強くした。
─── 私は笑いながらさっきはなぜ逃げたんですと聞けるような捌けた男ではありません。それでいて腹の中では何だかその事が気にかかるような人間だったのです。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
夏休みの宿題に出された読書感想文が「こころ」で、ものすごく読み辛くてイライライライラしたあげくその憤りのままボロクソに貶しまくって感想文を書き上げた駄目学生は私です。昔の話です。
いや、今読むと立派なBL名作ですからね、そりゃもう抱腹絶倒、ニヤニヤしながら読んでしまいますが、子どもの時はわからなかったんですよねぇ。わからなくて正解だった気もしますが。漱石タンは作品がどうこう以前にまず本人が萌えキャラですよね。さすが日本の誇る文豪だ。青空文庫でも読めるので、興味のある方はそちらでどうぞ。BLだと思えばけっこう楽しく読めると思います。たぶん。
「里中、起きろ。寝るなら布団を敷くから」
消灯には少し早い時間だったが、山田は里中の背中を揺さぶって起こしてやる。うう、と唸るような声を上げて里中がゆっくりと身体を起こした。大きく伸びをしながら、ああまたやっちまったと顔をしかめたので、山田が何が?と目で問うと、これ、と読みさしの本を里中はひらひらと振ってみせた。
「ああ、読書感想文」
夏目漱石の「こころ」。現代文の教師が夏休みの宿題に出した課題図書だった。
「何度読もうとしても寝ちまう。どこが面白いんだ、これ」
不服そうに里中はため息をついた。山田はもう読んだのか?と問われたので、山田は、ああ、と答えた。
「感想文も書いた?」
「書いたよ」
だってもう休みなんてあと3日しかないじゃないか、と山田は苦笑した。
「ああ、ちくしょう。早く読まないと・・・」
「まだ本、読むのか?」
「読むよ。仕方ない」
仏頂面が可笑しくて小さく笑うと、こういうの苦手なんだよ、と言って里中は口をとがらせた。
「なあ、どうだった」
「『こころ』?そうだなぁ。ちょっと難しかったかな」
「難しいっていうかさ・・・よくわかんないんだよ。なにを言いたいのか。読んでていらいらする」
「どれくらい読んだんだ?」
里中は頁を繰り、半分も行ってないか、と言ってまた眉を寄せた。
「『先生』の遺書の章になると、もう少し話がわかりやすくなると思うよ」
山田は布団を押入から引っ張り出しながらそう言った。
「『先生』の昔の話が出てくる」
「どういう話?」
「友情と、恋愛の話」
ふうん、と気の乗らない生返事を返しながら、里中は頁を繰った。
「友達と女を取り合うんだっけ?」
「話の筋、知ってるのか」
「いや、よくは知らない。でも昨日、三太郎がそんな話してたから」
女を取り合う、ねえ。山田は一人苦笑した。高校生にかかっては漱石先生も形無しだ。
「幼なじみの親友が、自分と同じ人を好きになってしまって、それですごく悩むんだ」
「友情をとるか、恋愛をとるかってことか?」
「まあ、・・・そうなるかな・・・」
ばからしい、と言って里中は本を開いたまま行儀悪くごろりと寝転がった。
「そんなの友情をとるに決まってる」
里中がさも当たり前だというように言い切る。山田は少し驚いて、眉間にしわを寄せながら頁を繰っている里中をしげしげと眺めた。山田の視線に気付いて里中は目を上げると、なに?というように目で問いかけた。
「難しい・・・問題だと思うけど」
「なんで。友情の方が大事だろ」
「・・・うーん」
「だって子どもの時からの親友なんだろ。そしたらそっちの方が大事に決まってるじゃないか」
まあ、それはそうなんだけど、と山田は苦笑した。そんな風に思い切れなかったから『先生』は苦しんだのだ。
「里中、俺はもう寝るよ」
「ああ」
里中は机の小さなライトだけ点けて、部屋の電灯を消した。きっと、30分もしたらまたそのまま寝てしまいそうだな、と思いながら山田は小さく寝返りを打った。
カラン、コロンと聞き慣れた下駄の音がする。
知っているような、知らないような、どこか懐かしい平屋建ての家の引き戸を開ける。
『ただいま戻りました』
山田は自分がかすりに袴という、ずいぶんと古風な姿をしていることに気付いた。がらんとした室内はひんやりとした空気に包まれて、しいんと静まりかえっていた。下駄を脱いで冷たい廊下を素足で踏みしめる。と、手前の障子の奥から小さな可愛らしい笑い声が聞こえてきた。ころころと鈴を転がすような声だった。
からりと障子を開けて中の人間に『帰ったよ』と声をかける。そこには山田と同じようにかすりに袴という服装をした里中がきっちりと正座をしていて『今帰ったのか』と言った。向かいには明るい色の着物を着た小柄な女性が座っている。妹のサチ子に似ているような気もするし、よく見かける熱心な里中のファンの娘の面差しのようにも見え、また全く見知らぬ女性のようにも見えた。彼女は、すぐにふいっと立ち上がると、反対側の障子を開けてするりと部屋を出て行ってしまった。
『なんの話をしていたんだい』
『どうということでもない』
そっけなく里中に返されて、山田は悲しい気持ちになった。急に床の冷たさが素足に浸みてきたような気がして、山田は部屋を出ようときびすを返した。
『じゃあ、また』
『俺は、今日ここを出るよ』
『どうして』
驚いて振り返ると、いつの間にか里中は立ち上がって障子を開け、縁側を降りて庭を出ていくところだった。
先ほどの和服の女性が小走りに歩み寄ってきて、里中の腕につかまる。にこりと笑みを返して里中は彼女の背に腕を回した。
『里中』
慌てて、山田は里中の背を追った。部屋の真ん中に置いてあった火鉢を蹴飛ばしてつんのめる。
『里中、待ってくれ』
『俺は、彼女と行くよ』
里中はこちらを向いてそんなことを言った。また胸の中に冷たいものがどっと広がっていく。どうして。お前は俺も気も知らないで。
『俺だって、彼女を』
と言って女性の腕を掴み、彼女の顔を見て、山田は大きく目を見開いた。
里中・・・?
はっと、目を覚ますと、あたりは暗く、まだ夜闇に包まれているようだった。左手の方がほのかに明るい。やはり里中は机のライトを点けたまま寝入ってしまったようだった。読みかけの本の頁もさして進んでいない。
なんて夢を見たのか。山田は大きく息をついた。掴んだ腕の感触が妙に生々しくてのひらに残っていた。寝る前に里中と小説の話をしたせいだ、と山田は床につく前の記憶をたぐり寄せた。
それにしても「K」も「お嬢さん」も里中だなんて。我ながらなんとも芸のないキャスティングだ。他に女子を知らないわけでもあるまいし、しかもサチ子に似ているなんて、と思い出したところで急に山田は胸が不安にざわめくのを感じた。サチ子はなぜ里中に変化したのだろう。夢の中とはいえ「K」にひどい焦りと嫉妬を覚えことが山田の感情を波立たせていた。「お嬢さん」が里中に変化したとき、「K」は一体誰だった ───?
山田は物思いを振り払うように頭を振って、まだ机につっぷしたまま寝入っている里中の肩を揺すった。
「里中、起きろ」
ぽんぽん、と何度か叩いてみたが起きる気配がないので、身体を抱き起こして布団に入れてやろうと腕を掴んだ。
その腕の感触が、さっきの夢の中の里中と重なって、瞬間山田は身体を強ばらせた。
ふいに、寝る前に聞いた『そんなの友情をとるに決まってる』という里中の声が山田の耳によみがえった。そうだろうか。そんな簡単に思い切れることだと、里中、お前は思うのか?
手のひらにじんわりと里中の体温が伝わってくる。山田は突然わき起こった衝動のままに、そっと里中の小さな身体を両腕で抱き籠めた。胸が呼吸にうすく上下するのを手のひらで確かめ、里中の背中に顔を押し当てて山田は目を閉じる。
『K』は里中だった。そしてまた『お嬢さん』も里中なのだ。無意識に言葉にすることを避けていた感情が、ゆるゆると明確な形をとって胸の中をいっぱいに占領していくのを、なすすべもなく山田は見守った。昨日今日の話ではない。もうとっくに、きっと初めて彼の球を受けたあの日から ───
さとなか、と山田は声に出さずに想い人の名を呼んだ。安らかな寝息は、山田の腕の中で規則的に吐き出され、とどまることはない。
形になってしまった想いの深さと大きさに、山田は絶望を覚えた。この先どんなことがあろうと、この想いは断ち切れることはないだろう。里中を苦しめ、そして里中を愛する人を傷つけるだろう。哀しい予感に、ただ山田は腕にこめる力を強くした。
─── 私は笑いながらさっきはなぜ逃げたんですと聞けるような捌けた男ではありません。それでいて腹の中では何だかその事が気にかかるような人間だったのです。
「こころ」(夏目漱石)
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
夏休みの宿題に出された読書感想文が「こころ」で、ものすごく読み辛くてイライライライラしたあげくその憤りのままボロクソに貶しまくって感想文を書き上げた駄目学生は私です。昔の話です。
いや、今読むと立派な
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このブログについて
ドカベンにハマって4年目となりました。水島ファンからするとまだまだ新参者ですがよろしくお願いします<(_ _)> 。ちなみにドカベンには某東京ローカル局のアニメ再放送(2008年1月~)でまんまとハマりました。里中かわいいよ里中。
ちなみにそこそこ乙女向けなのでお気を付け下さい。山里メインの球里・三里てところでしょうか。ロッテの三馬鹿大好きです。里中受はたいがい大好物です。
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管理人:ねりの
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